NO.183
発行年月日:2008/07/03

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トピックス
◇欧州 塩ビ製品リサイクルの現場を訪ねて(その1)
—ドイツにおける塩ビサッシと床材のリサイクル—
塩ビ工業・環境協会 柳 良夫

随想
百聞は一見にしかず(連載17)
    国際連合大学 上野 潔

お知らせ

編集後記

トピックス
◇欧州 塩ビ製品リサイクルの現場を訪ねて(その1)
—ドイツにおける塩ビサッシと床材のリサイクル—

塩ビ工業・環境協会 柳 良夫

 欧州の塩ビ製品のマテリアルリサイクル(メカニカルリサイクル)施設数社を4月下旬に訪問する機会がありました。印象に残った塩ビ製品のリサイクルについて、2回にわたって今回はドイツ、次回はベルギー、フランスの事例についてご紹介します。

VEKA:収集ローリー車
VEKA:工場端材/使用済み廃材
VEKA:再生コンパウンド出荷
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AgPR:全景
AgPR:使用済み床材
AgPR:再生コンパウンド
 1つ目は塩ビサッシのリサイクルを実施しているVEKA UT社で、ドイツのほぼ中央、チューリンゲン州のベーリングにあります。ドイツは塩ビサッシの歴史も長く、普及率も6割近くの塩ビサッシ大国で、部材から塩ビサッシを組立て、施工、据付する会社が3,000社以上もあるといわれています。リサイクルされるサッシの施工端材や使用済み廃材はこうした会社から排出されます。同社は欧州最大の塩ビサッシの部材メーカーVEKAグループの一員で、リサイクル原料として受入れている塩ビサッシの端材、廃材の殆どは同グループの部材を使う組立施工会社から収集されたものです。

 1993年に3万トン/年の能力でスタートした設備は、2007年に増強され、年間4万トン近い端材と廃材が再資源化されて、塩ビサッシに生れ変っています。同社のリサイクルはどこからも助成を受けることなく、経済的に自立した事業となっています。自社の収集システムによる安定した集荷が可能であり、同じグループ内の大手部材メーカーが用途の受皿となっていることなどがその理由にあげられますが、何といっても塩ビサッシが普及していることがその背景にあります。日本ではプラスチックサッシ工業会、日本サッシ協会と弊協会が合同で、将来の排出量の増加に備えたリサイクルの検討を数年前から始めており、昨年よりモデル事業がスタートし、既に使用済み塩ビサッシからサッシへのリサイクルが可能な形になっています。ドイツに比べ、塩ビサッシの導入が遅かったことや、当初の想定以上に長期間使用されているためか、排出量はまだ微々たる量ですが、普及が進み、排出量が増えてくれば、塩ビ製品のリサイクルの中心的な存在になることでしょう。

 2つ目は塩ビ床材のリサイクルを実施しているAgPRで、ドイツの中西部ケルン近郊にあります。欧州の大手床材メーカーが出資して1990年に設立され、1994年に再資源化プラントが完成、運転を開始し、現在に至っています。AgPRは使用済み床材のリサイクルに特化した組合で、メルマガ5月22日号(No.177)で紹介したRecovinylシステムの認定リサイクラーでもあり、建設会社や解体事業者など約150社と契約して、ドイツ国内20数箇所の回収拠点から使用済み塩ビ床材を集めてリサイクルしています。床材には塩ビ製以外のものもあり、回収拠点で排出者に分別を徹底させなければならず、塩ビ床材を確実に識別するため、各拠点の管理者に対するトレーニングや見本サンプルの準備などの業務も同組合が担っています。

 使用済み床材というリサイクルの困難な廃塩ビ製品を再生利用するためには、数段階の破砕、金属除去、そして軟質製品を微粉砕するための凍結粉砕技術や風力分級などの複雑な工程が必要で、その工程を経て再生材料として床材メーカーに出荷され、床材の原料として再資源化されています。このリサイクルは出資者である大手床材メーカーなどから助成を受けて事業が続けられています。
 一方、日本では、同じ床材の端材や農ビなど他の塩ビ製品の再生材が床材の芯材として広く使われています。その使用比率はエコマークの認定基準である15%を超えており、エコマーク商品にビニル床材として指定されています。また使用済み床材のリサイクルについても床材メーカーの集まりであるインテリアフロア工業会で検討されています。
 塩ビサッシ、床材のリサイクルをドイツで現実に目にして、塩ビ樹脂がマテリアルリサイクル適性に優れ、循環型社会の形成に貢献できる素材であることをあらためて認識しました。 (了)

メールマガジンNo.177はこちらからご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/177/index.html#topics

随想
百聞は一見にしかず(連載17)
国際連合大学 上野 潔

 百聞は一見にしかずといわれます。確かに見ると聞くとは大違いのことが沢山あります。見ることはどんな場合でも重要です。そして見せることも。

 ある委員会のヒアリングで高名な委員から「欧州の都市は綺麗ですね。どこにも不法投棄なんて無い」といわれました。私は「銀座や丸の内にも不法投棄なんて見当たりませんよ」と答えました。その委員は超大手企業の会長でしたから、国内外問わず移動は専用車、宿泊は一流ホテル、訪問先もピカピカの本社ばかりなのでしょう。
 北欧の憧れの街ストックホルムの夜明けは道路中にゴミが散乱していました。前日が清掃組合の休日だからで毎週月曜日の朝はその様です。(数年前のことですから最近はどうでしょうかね?)
 正月休みなどは銀座や新宿などの都心もゴミがあふれています。清掃作業も年末年始は休むからです。石原都知事が、ごみ収集は深夜に行ってはという提案をしていましたが、確かに日中に清掃車両が道路を走る姿を見るのは美しいとは言えないと思います。綺麗な街は、税金によるメンテナンスによって保たれているのです。

 年度末になると環境分野でも海外調査団が増えます。メンバー構成はいろいろですが一様に路上のゴミ箱の写真を撮ってきます。欧州ではゴミをこんなにきちんと分別していますと言う報告になるのです。もちろん見てきたのですから事実です。昨年見たシカゴやボストンの空港で分別用ゴミ箱が設置されていました。世界の常識になっているのでしょう。しかしドイツでもオーストリアでも郊外の工業地域の周辺の草むらに行けば立派に?不法投棄や路上放置のゴミを見かけます。
 中国のリサイクル事情も見る人によって極端に評価が分かれます。最新の巨大リサイクル施設を見た人は日本よりも進んでいるといい、劣悪な処理風景だけを見てきた人はE−wasteが氾濫していると報告します。どちらも「実際に見た事実」ですから正しいのです。しかしそれで中国全体を評価することは間違いでしょう。「中国は沿岸部だけで日本全体が5つや6つ入る国だから、進んでいる部分を見るべきで遅れている部分を含む統計比率で判断すると誤るよ」という識者の意見も思い出します。

 旅行をして良い印象を持つ基準は、公衆トイレにあると言います。数年前まで日本の駅と公園のトイレは3K(汚い、臭い、怖い)の代名詞でした。最近日本の駅のトイレが昔と比べて格段に綺麗になりました。なぜ、一流ホテルやデパートのトイレは綺麗なのでしょうか?理由は簡単です。掃除の頻度が高いからです。「ここは*時*分に**が清掃いたしました」と表示されているトイレもあります。
 駅のトイレが綺麗になった理由もトイレットペーパーを常備するなどの設備だけでなく、清掃の頻度を増やしたからだと思います。民営化の効果でしょうか?清掃員も制服に名札を着用して仕事に誇りを持っているようです。当然費用がかかります。費用は鉄道利用者が乗車券など見えないお金で負担しているからなのでしょう。このことは良い環境を求めるには費用がかかることを示しています。自然のまま放置するのでは決して良い環境は得られないのです。

 さて見られるといえば、会社にとって見学者を受け入れることは実は大変なのです。外部の人を工場の中に入れるためには「説明員」「説明資料」「説明会場」の準備だけでなく、何よりも安全対策が必要です。昔から製鉄所や発電所など公的色彩の強い会社、ビール会社や家電メーカーなど消費者に敏感な業種では見学を積極的に受け入れ、見学対応の専門部署を設けたり、工場内に見学コースを設置している場合が多いようです。見学者を受け入れてもすぐに利益に繋がるわけでもありませんが長い眼で見れば味方を増やすことになり得をしているのです。

 見られることによって工場も綺麗になり、情報公開の基本にもなるのです。「同業者お断り」、「写真撮影お断り」というのもごく一般的ですが、これは見学する側のエチケットの問題でしょう。ノウハウなどの流出を心配して見学を一切受け入れない最新鋭工場もありますが損をしていると思います。最新鋭工場であればなおさらはじめからノウハウのもれない見学コースを考えておくべきでしょう。

 日本の多くの家電リサイクルプラントや各地のエコタウンは毎年数万人を越える国内外の見学者を受け入れています。学校の授業に取り入れられている地域もあります。
 リサイクルプラントの場合は施設への理解だけではなく、環境に関する消費者への普及啓発にもなっています。「こんなにすごい設備を使って大勢の人が丁寧に分解していることを始めて知りました。リサイクルに費用がかかるのは当然ですね。」
 見学者から聞く最も嬉しい感想だそうです。こうして環境への理解者が増えているのです。百聞は一見にしかずです。そして見せることは一番の広報・宣伝になるのです。

 塩ビ工業・環境協会の会員各社の事業所は、化学プラントが多いので見学には不向きかもしれませんね。どのようにして見学者を受け入れていますか?(了)

前回の「ジャンプ(連載16)」は、下記からご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/178/index.html#zuisou

上野潔様の連載のバックナンバーは、以下のアドレスからご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

お知らせ

メールマガジンのメール版にてお知らせいたしました、第19回 国際 文具・紙製品展への出展は誤りでした。
塩ビ工業・環境協会での出展はございません。
お詫び申し上げます。


編集後記
 7月です。2008年のメルマガも折返し点にさしかかりました。今週は、トピックスも随想もどちらも、ものを見聞きすることに絡むお話し。「百聞は一見にしかず」されど一見、ものの実態を知ることのむつかしさを執筆いただきました。「百見は一行にしかず」という言葉もあります。一緒になって行動してみることが実態に迫る最良の方法なのでしょうが・・・
 6月初め、関東建設廃棄物協同組合の企業の方と建設系混合プラスチック廃棄物の組成調査を経験しました。選別分類された廃棄物や未選別物からのサンプリングが小生の役目。固形物の集合体から全体を反映したサンプルを採取するのは至難の技。しかしやらないわけにはいかない。このサンプルから全体を見ることになるのです。上野先生の随想を読んで、なぜかこの時のことが頭に浮かびました。(丸茶)

VEC関連URL
●家族で学べるページ https://www.vec.gr.jp/kids_new/index.html
●塩化ビニル環境対策協議会 http://www.pvc.or.jp/
●樹脂サイディング普及促進委員会 http://www.psiding.jp/
●樹脂サッシ普及促進委員会 http://www.jmado.jp/
●メールマガジンバックナンバー https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

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