◇ご挨拶と気候変動対策について |
塩ビ工業・環境協会 専務理事 関 成孝
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7月18日付で、西出前専務理事の後を継ぐこととなった関成孝(せきしげたか)と申します。よろしくお願いいたします。
これまで、経済産業省に勤務しておりましたが、入省して最初に配属されたのが化学製品課(現化学課)でした。そして、その最初の仕事の一つが塩ビの共販でした。当時の塩ビ協会に日参し、夜遅くまで職員の方々と一緒になって審議会の資料を作成していたのが懐かしく思い出されます。その後、国際関連、環境、エネルギー、化学品安全等の仕事に携わってきました。その中で、ダイオキシン問題、環境ホルモン問題等の化学品安全問題にも関わり、正しい科学的知見の蓄積とリスク評価、およびそれらに基づいた政策展開や市民とのコミュニケーションなどに従事しました。
また、地球環境問題は、経済産業省環境担当参事官として、また、OECD国際エネルギー機関の国別審査課長として深く関わってきた分野です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第四次報告書では、温暖化対策を議論する第三作業部会報告書の第七章(産業分野)査読者として私個人が執筆陣に名を連ねております。
このような過去の経験、知見を生かせる職に就けることは、私にとってとても幸運なことです。
さて、メルマガ初投稿となる本稿では、この地球温暖化問題について少し触れてみたいと思います。IPCCには、3つの作業部会があります。WG1は気候変動の科学的な評価、WG2は気候変動の結果予想される影響の評価、WG3は気候変動の緩和の可能性の評価を行っています。これらのWGが、今年に入って相次いで報告書をとりまとめました。それによると、20世紀半ば以降の世界平均気温上昇のほとんどが、人為的な影響による温室効果ガス濃度上昇によるものである可能性が非常に高いということです。温室効果ガスの排出が増加し続けると、さらに温暖化が進み、極端な気象現象の頻度の増大、洪水、暴風雨、干魃の被害の拡大、生態系や農業、健康への悪影響など、様々な問題が懸念されます。
将来の温室効果ガス濃度の予想は、これからの成長シナリオにより、2030年には現在に比べて25−95%増と大きな幅があります。炭酸ガス換算にしてだいたい60ギガトンがその中位となります。他方、人為的な温暖化ガスの排出削減ポテンシャルは、仮に炭酸ガス1トンあたり100ドル投資するなら16−30ギガトンと予想されています。つまり、排出量を半減できる可能性があるということです(ただし、これは単に技術開発を進めれば達成可能という単純な話ではありません。経済効率性、公平性の他、生活・文化、持続的開発と南北問題への対応など、複雑で複層的な課題を克服せねばなりませんが、紙面の制約がありますので、機会があれば改めてご紹介したいと思います)。
WG3の報告書は、分野ごとの削減ポテンシャルを評価していますが、その中で住宅、建物分野はエネルギー起源炭酸ガスの1/3を排出し、2030年での削減ポテンシャルは5−6ギガトンと大きなシェアを占めています。実は、この分野では、多様な削減措置が適応でき、また、それらの相乗効果も期待されるのですが、そのすべてを評価できてはいません。さらに、コストがかからない削減ポテンシャルが大きいため、高コストの措置の効果も詳細には評価されていません。このため、実際の削減ポテンシャルは予測よりも大きいと見られています。
日本において、樹脂サッシの導入により、炭酸ガス3500万トンの削減ポテンシャルがあると推測されています。これは、今後、日本が京都議定書の目標を達成するために行わなければならない削減量の2割にも相当します。世界的にも、冷暖房効率を高めることで大きな炭酸ガス排出削減が可能です。古い建物の断熱効果を高める対策は必ずしも容易ではありませんが、樹脂サッシは内窓として設置が比較的容易であり適応性が高い対策となります。従って、樹脂サッシ導入を、途上国との間のCDM(クリーン開発メカニズム)や先進国との間のJI(共同実施)のプロジェクト化することで、日本として大きな排出権を獲得することも夢ではないでしょう。
樹脂サッシの原料となる塩ビは、他の樹脂に比べて製造エネルギーや耐久性に優れており、LCA比較をすると3割程度のメリットがあります。金属素材と比較すればその優位性はさらに顕著となります。リサイクル性にも優れています。かつてダイオキシンや環境ホルモンに関して塩ビが取り上げられたことがありますが、その後の詳細な調査・研究の結果、問題がないことが明らかとなっています。最近は、家電製品などでの発火がたびたび報告される中、自己消火性のある塩ビは事故のリスクを低減させるものとして再評価されてきています。
塩ビの用途はたいへん多様です。ブランドものの高級バッグなどにも使われているとおり、美しく高級感のある素材を作るのもお手の物。エレガントだけどエコな暮らしを目ざし、上手に使っていただければと期待する次第です。 |
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