NO.128
発行年月日:2007/05/17

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トピックス
◇廃棄物処理企業の心意気と三つ子の魂
 −産業廃棄物 焼却処理企業を訪問して−
塩ビ工業・環境協会 柳 良夫

随想

製造文化の闘い −欧州WEEEの見直しが始まる−(連載5)

国際連合大学 上野 潔
お知らせ
世界ビニルフォーラムが9月米国ボストンで開催に!

編集後記

トピックス
◇廃棄物処理企業の心意気と三つ子の魂
 −産業廃棄物 焼却処理企業を訪問して−
塩ビ工業・環境協会 柳 良夫

 今年の3月にいくつかの産業廃棄物処理企業を訪ねる機会がありました。焼却技術の進展に伴い塩ビを含む焼却処理の実態がどう変わりつつあるのかを把握するために4,5年毎に焼却処理企業にアンケート調査と合わせて訪問してヒアリングをさせてもらっているもので、今回は2002年以来5年ぶりの調査となります。
 その中のひとつ、大分市の大山商事株式会社を訪問した時のことをご紹介します。同社は主に大分県内の自動車や建屋の解体、解体部材から金属の回収・再資源化、フロン類の回収、廃プラ類の焼却処理などの事業をされている会社です。我々の目的は廃プラのサーマルリサイクル及び焼却処理の実態調査でしたので、そのことについて総務部長の野上さんからお話しを聴かせていただき、施設を見学して、塩ビを含む廃プラについても問題なく処理されている実態を見せていただくことができました。その時に見聞きした地元小学生への工場見学を通じた環境教育が今週のトピックスです。

工場を見渡す展望台
小学生からの手紙
 先ず気づいたのが事務所の建物です。2階建て事務所の一角が丸い形の3階建てになっていて周囲360度が望める面白い構造になっています。それは見学に来た地元の小学生に工場の全体を見せるための展望台でした。野上部長によると、事務所新築にあたって環境教育の重要性を意識され、このような展望台を設計に織り込まれたとのことでした。子供たちは危険な解体現場の近くまでいかなくても、工場の解体工程全体を見ることができます。
 次に気づいたのが打合せ会議室へ向かう壁一面に貼ってある、見学した小学生からのお礼と感想の手紙でした。子供たちが同社を訪問して感じた気持ちがひとつひとつに書かれてあります。ある手紙には1ヶ月のごみの量にびっくりした感想、また別の手紙には「分ければごみは資源になるんだ」と分けることの大切さを知った内容といろいろで、実際に工場見学した時の子供たちの驚きやら感想やらが率直に書かれていて、彼らの明るい声が聞こえてくるようでした。

 “三つ子の魂百まで”という言葉があります。山口県西部のかつて炭鉱があった町で小学校を過ごした小生には、小学校の社会見学でヘルメットにカンテラをつけてもらい、トロッコで海底に延びる坑内を見せてもらった記憶がいまだにあります。小学校時代の記憶は殆ど残っていないのに今でもそのことだけはよく覚えています。同社を訪れて感想の手紙を書いてくれたこの子供たちにとっても記憶と共に「分ければ廃棄物は有用な資源となるんだ」という意識が大人になっても残ることでしょう。そして、それが資源循環型社会の形成の底力にもなるのだと思います。
 企業が社会に対し責任ある行動をとらねばならないとするいわゆるCSRが最近、特に強く求められています。また産業廃棄物の処理事業では特に周辺の地域社会から理解を得ることが企業存立の大きな要素になっており、今回訪問した他の産廃処理企業各社でもそのための努力が様々な形で行われています。工場見学を通じて地元の小学生に環境教育を実施されている大山商事株式会社に地場産業のCSRに対する心意気をみる思いで帰ってきました。

随想
製造文化の闘い −欧州WEEEの見直しが始まる−(連載5)
国際連合大学 上野 潔

 言葉が激しいかもしれませんが、2007年から2009年にかけて欧州と日本(アジア)の製造文化の闘いが始まる予感がします。

 1992年の地球サミット以来、環境分野で日本は多くのことを欧州から学んできました。予防原則の考え方やEPR:Extended Producer Responsibility(拡大生産者責任)の考え方など欧州から発信された理念を日本は世界に先駆けて具体的な法令や自主規制に適用してきました。電気電子業界では冷蔵庫の断熱材フロンの回収方法やテレビ用CRTのP/F(パネル・ファンネル)分割法などリサイクル技術についても欧州から沢山の知見を得てきたのです。今では資源有効利用促進法(3R法)によって、きめ細かなDFE:Design For Environment(環境適合設計)が多くの組立て産業分野に普及しています。

 昔から欧州は理念先行型で実行するのは日本とも言われてきました。たしかに欧州WEEE(廃電気電子機器)指令は1996年頃から議論ばかりして2005年の8月13日からようやく施行の運びとなりました。日本の家電リサイクル法は2001年に施行され、5年目を経過して既に見直し議論が開始されているのです。
 欧州ではWEEE指令を実際の法律にした国々は最近のことであり、運用面になるとさらに課題が噴出していると言われています。これは決して欧州を非難しているのではありません。今年から27カ国になり格差の大きいEUをひとつのフレームでまとめることは想像を絶する困難さがあるのだと思います。
 この3月15日に欧州ブリュッセルでWEEE見直しに関する専門化ワークショップが開催されました。なんと欧州WEEE指令が発効して1年半も経ていないのです。多数の欧州国際連合大学のメンバーがこの見直し作業にも係わっています。

 私が最も注目するテーマはリユースとリサイクルです。欧州は、元来が資源大国なのです。あまり話題になりませんが北海油田を持つイギリス、ノルウエー、だけでなくデンマークも北海油田開発に着手しています。また音楽と観光だけの国と思われている小国オーストリアも産油国で資源大国なのです。欧州のかつての植民地は資源豊富(資源豊富なところを植民地にしたから当然?)であったし、今でも多くの旧植民地とは良好な関係を維持しています。このような国柄の欧州が考えるコストミニマムな廃棄物対策は、資源回収よりも有害化学物質への対策に向かうことになりRoHSやREACHなど化学物質への対応に重点が置かれます。他方、わが日本は根本的に資源小国です。ABCD包囲網などの古い言葉は忘れても石油ショックは若い人でも覚えているでしょうし、材料でも最近の鉄、銅の異常な値上がりやロジウムやインジウムなどへの思惑や潜在的な危機感なら認識されているでしょう。

 このような日本の国情やこまやかな勤勉さは家電リサイクル法でも脈々と生きており、手分解や高度分別技術による素材回収や素材自己循環などの、世界でも稀に見る技術を生み出しています。しかしながら昨今の家電リサイクル法の見直しでは、欧州の動きを見た世界戦略的な議論よりも「処理料金の前払いか、後払いか」「処理料金の内訳公表」などの言わば枝葉末節の部分に議論の焦点が当てられていると思います。

 欧州WEEE見直しの論点は今年の秋ごろに集約され、いつもながらのロビー活動を経て2009年頃に全面的に改定される見込みと言われています。項目ごとに徹底したファクトファインディングが求められています。日本でも話題になっている「リユース名目の見えない流れ」については欧州でもデータが無い状況で、E-waste:Electronics Wasteの原因とされていますが、リユース促進とWEEEとはフレームを分けるべきとの意見も出ているようです。そしてもっとも大きな論点が「リサイクル配慮設計よりも、コスト効率的な破砕選別技術を重視」する考えです。有害化学物質の事前分別に重点を置いた資源回収方式は破砕機による分別技術に頼らざるを得ず、処理コストは下がったとしてもレアアースなどの希少資源の回収は困難です。せっかくDFEで分離分解性のよい製品を作っても一括して破砕してしまうのであれば、DFEへのインセンティブは働かなくなるでしょう。

 手分解工程を多くした環境配慮製品の処理には人件費がかかります。リサイクルを人件費の安い途上国に委ねることは道理に反するでしょう。処理費用を消費者に求める以上(前払い、後払いに関係なく)処理費用の少ない処理方法にすることは避けられないかもしれません。欧州方式の優位性はそこにあります。しかし、これではせっかく日本が優位に立っているきめ細かいDFEの手法から離れ、単に有害化学物質を削減さえすればよいという流れを促進することになりかねません。有害化学物質の管理は当然ですがその分離分別も含めた日本のDFE文化のすばらしさをこそ、世界に認知させたいものです。しかしこの分野で再び日本は世界の少数派になろうとしています。今こそアジアを中心にDFEの考え方を広めていきたいゆえんでもあるのです。

 これから2年間、欧州への恩返しとして「製造文化の闘い」が始まろうとしています。さまざまな技術を開発し、リサイクルの優等生として再利用を促進してきた塩ビ業界は「プラスチックは分別せずに燃してしまえ」などとは言わないと思います。精緻なDFEによる易分解性設計こそ塩ビの消費をますます世界に広める手段ともいえると思いますが。有識者のご意見は如何でしょうか。

前回の「化学物質規制が世界を変える(連載4)」は、下記からご覧頂けます。
https://www.vec.gr.jp/mag/123/index.html#zuisou

お知らせ
世界ビニルフォーラムが9月米国ボストンで開催に!

5年ごとに開催される世界ビニルフォーラムの詳細は、VECホームページのトピックスでご覧頂けます。
 日本語版:https://www.vec.gr.jp/topics/new73.htm
 英 語版:https://www.vec.gr.jp/english/topics/070419_1.htm

編集後記
 東京では日を追うごとに新緑が濃くなり、5月の風に樹々が白い葉裏を見せて波打つ生命感あふれる美しい季節となってきました。21日は24節気の”小満”、万物生気が充満する時期とのこと。
 国連大学上野先生には今回も「製造文化の闘い−欧州WEEEの見直しが始まる−」の題で示唆に富む興味深い随想をいただきました。音楽の都ウィーンのオーストリアが産油国であるとは正直びっくりしました。理念先行の欧州を先取りして体現した、日本のきめ細かな環境配慮設計(DFE)の文化が世界の主流として普及することは、リサイクル適性の優れた塩ビを扱う私どもの願いでもあります。(yy)

VEC関連URL
●VEC 塩ビジュニア https://www.vec.gr.jp/kids/index.html
●塩化ビニル環境対策協議会 http://www.pvc.or.jp/
●樹脂サイディング普及促進委員会 http://www.psiding.jp/
●樹脂サッシ普及促進委員会 http://www.jmado.jp/
●メールマガジンバックナンバー https://www.vec.gr.jp/mag/index.html

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