english
お問い合わせ

塩ビ製品の実用特性

1.塩ビ製品の長所と短所

 塩ビ製品は価格と物性のバランスがとれた優れた汎用樹脂製品です。その使用時の物性の長所と短所を整理してみると次のようになります。

 また、短所を改良するためには、ポリマーアロイによる改質が可能です。塩ビ製品の改質方法と物性をご覧下さい。

長所

  1. 機械的安全性が優れている。
  2. 耐クリープ性に優れている。
  3. 可塑剤を添加することで塩ビ製品の柔らかさを自由に変えられる。
  4. 耐薬品性が優れている。
  5. 透明である。
  6. 接着性、印刷性に優れている。
  7. 難燃性である。
  8. 電気特性が良い。
  9. 軟質塩ビ製品の場合、ゴムのようなエラストマーや皮革のような風合いが得られる。
  10. 耐久性に優れている。
  11. 耐疲労性に優れている。

短所

  1. 低温時の衝撃強度が低い。
  2. 常用耐熱温度がやや低い。
  3. 軟質塩ビ製品の場合、可塑剤の滲み出しがある。(ブリード、揮発、移行)
  4. 溶融時の粘度が高く、大型の射出成型に向かない。

2.実用特性

機械的な安定性

 化学的に安定し、長期にわたって分子構造の変化が少ない塩ビ樹脂は、機械的強度も変化しにくい材料です。しかし、高分子材料は粘弾性体であり、降伏点以下であっても外力を加え続ければ変形を起こします。これをクリープ変形と言います。塩ビ樹脂は粘弾性体ですが、常温では極性による引き合いが強いので、非結晶部分が非常に柔らかいポリエチレン、ポリプロピレンに比べ、クリープ変形は極めて小さい材料です。

 京都工芸繊維大学とのプラスチック管の耐用年数に関する共同研究で、硬質塩ビパイプの寿命が50年以上であることがわかりました。つまり、50年使用後でも設計周方向応力の3倍の強度も持つことが、内圧クリープ試験で明らかになりました。このことからも塩ビ樹脂が長期間にわたって機械的強度を維持できる材料であることがわかります(図表1)。

粘弾性体

粘性と弾性の両方の性質を持つ材料のこと。外力を吸収する性質(弾性)と同時に外力により変形して流動する性質(粘性)とを併せ持つことを言います。殆どのプラスチックは粘弾性体です。

降伏点

材料に外力を加えていく場合、降伏点までは主に材料の弾性変形(歪み)が起こりますが、外力を取り去ると歪みは解消されます。降伏点を超えた外力に対しては塑性変形(永久歪み)が発生し、外力を取り去っても材料は元の形状に回復しません。

図表1.硬質塩ビパイプの内圧により発生する周方向応力と破壊時間

硬質塩ビパイプの内圧により発生する周方向応力と破壊時間
出典:塩化ビニル管・継手協会

耐久性

 通常の使用環境下で材料の耐久性に最も深く関与する要因は、空気中の酸素による酸化反応に対する抵抗力です。塩ビ樹脂は、炭素鎖の1個おきに塩素原子が結合した分子構造を持ち、酸化反応に対して極めて強く、半永久的に性能を保持する素材です。これに対して、構成元素が炭素と水素のみの他の汎用プラスチックは、長期の使用条件下では、酸化劣化は避けられません。

 塩化ビニル管・継手協会が使用中のパイプを掘り出して強度を測定した調査では、最長35年を経たパイプでも、初期のものと同様の強度を示しました。(図表2)

 硬質塩ビパイプの耐用年数は50年以上ですが、最長35年間土中に埋設して使用されていたものも、劣化せずに未使用品と同等の強度を示しました。

 ちなみに硬質塩ビパイプを早くから導入していたドイツでは、50年以上を経たパイプでも新品と同様の強度を示したという結果が報告されています。

図表2.硬質塩ビパイプ強度の経年変化

硬質塩ビパイプ強度の経年変化
出典:塩化ビニル管・継手協会

 また、自動車の外装部品3種類(可塑剤を含む軟質塩ビ製品)を、13年使った廃車から回収し、オリジナルの物性と比較したところ、ほとんど劣化がありませんでした(図表3)。熱分解時間が短くなっているのは再加工時の熱履歴によるもので、安定剤を追加すればオリジナルと同等になります。実際、パイプでも自動車部品でも回収したものを再加工すればオリジナルとまったく同じ製品を成形でき、その物性もオリジナルのものとほとんど変わらず実用上支障ありません。

 このように塩ビ樹脂は優れた耐久性を有するため、長寿命製品の素材に適しており、リサイクル性に優れた素材です。

図表3.回収自動車外装部品の物性変化

回収自動車外装部品の物性変化
出典:「塩化ビニル樹脂と環境問題」(牧野哲哉)プラスチック成型加工学会誌「成形加工」Vol.10,No.1(1998)

耐油/耐薬品性

 塩ビ樹脂は、酸、アルカリやほとんどの無機薬品に侵されません。また、芳香族系炭化水素類、ケトン類、環状エーテル類には膨潤あるいは溶解しますが、これら以外の有機溶剤には溶けにくい特徴があります。この特性を利用して、排気ダクトや土木シート、ボトル、チューブ・ホースなどに利用されます。

疲れ強さ(耐疲労性)

 塩ビ製品の疲れ強さを他の汎用樹脂と比較したものが図表4です。疲れ強さは試験片に107回(1千万回)の繰返し応力を加えたとき試験片が破壊しない最大応力にて表されます。
(繰り返し力を加えても破壊しない最大の力。)

図表4.各種プラスチックの疲れ強さ

各種プラスチックの疲れ強さ
出典:工業調査会「プラスチック年鑑」

 塩ビ樹脂はPE、PP、PSなどのオレフィン系汎用樹脂に比較し、引張り強さ、引張り弾性率、曲げ強さ等の機械的強度が高く剛性があり耐久性に富んでいるため、上下水道用のパイプや雨樋、樹脂サッシ等に用いられています。

 また、可塑剤を添加した場合は、引張り強さ、疲れ強さの高いゴム様弾性体となり、天然ゴムや合成ゴムのかわりに工業用ホース、パッキング、自動車部品、電線被覆などに使われています。

クリープ特性

 プラスチック製品は常温でも荷重がかかった状態で放置すると時間の経過とともに製品の変形が進行していくといったクリープ現象があります。クリープはコールド・フロー(低温流動)ともいわれ、プラスチックを建材や工業用部材に使用する場合に特に重視される特性です。通常の環境条件下では、ポリエチレンやポリプロピレン等の他の汎用プラスチックに比べ、硬質塩ビ製品は、図表5のとおり、クリープ歪みが小さな優れた材料であるため、各種の内装・外装建材(ダクト、パネル、窓枠、デッキ材など)や電気・機械器具部品に幅広く使用されています。

図表5.各種熱可塑性樹脂のクリープ特性

各種熱可塑性樹脂のクリープ特性
出典:プラスチックス,21(6),24(1970)

可塑剤の添加効果

 塩ビ樹脂は極性を持つので分子間力が強いため、通常加工製品は常温で硬い成形物となっています。一方塩ビ樹脂に可塑剤を加えて成形すると、柔軟性に富んだ加工製品をつくることが可能になります。これは塩ビ樹脂の持つ大きな特長です。

 可塑剤が入っていない塩ビ製品は硬質塩ビ製品、可塑剤が入った塩ビ製品は軟質塩ビ製品と呼ばれます。軟質塩ビ製品が軟らかいのは、ポリマーの分子間に可塑剤が入り込み分子間を広げた構造となっており、分子間力が相対的に弱くなっているためです。

 図表6は塩ビ樹脂中の各種可塑剤の濃度と成型品の引張り強度と引張り伸び率の関係を示したものです。塩ビ樹脂中の可塑剤の含有量が増えるのに従って成型品が軟らかく(引張り強度の低下)、伸びやすい軟質状態に変化していくことがわかります。これによってゴムのような弾力性、皮革のようなしなやかな風合いができるので、パッキング、ホース、自動車部品、合成皮革、表皮などに使用されています。

図表6.可塑剤の添加効果(引張り強度、伸び)

可塑剤の添加効果(引張り強度、伸び)
出典:Encyclopedia of PVC 2nd Edition vol1.p.494
Leonard I .Nass , Charles A.Heibergen(Marcel Dekker Inc.)

耐薬品性

 塩ビ樹脂は炭素原子同士の単結合がポリマーの主鎖であるため、PE、PP、PSなどのオレフィン系汎用樹脂と同様に耐薬品性に優れています。図表7は塩ビ樹脂と他の汎用樹脂の耐薬品性を比較したものです。エンジニアリングプラスチックや特殊樹脂の中には酸やアルカリに弱いものもあり、フッ素樹脂(ポリフロロカーボン)のように耐薬品性に特に優れたものもあります。塩ビ樹脂は耐薬品性と機械的物性に優れるため、薬品タンク、プラスチックバルブ・フランジ、排水・下水パイプ、工場配管などに使用されています。

図表7.プラスチックの耐薬品性と相対指数

プラスチックの耐薬品性と相対指数
出典:「プラスチック年鑑」

透明性

 塩ビ樹脂は非結晶性のポリマーであるため製品は基本的には透明となります。不透明な製品は塩ビ樹脂と相溶しない配合剤を加えたためです。透明性を測る目安として「ヘイズ値」があります。ヘイズ値は試験片の散乱光線透過率を全光線透過率で割ったものを百分率で表したものです。

 また塩ビ樹脂は光沢性の良い製品を作ることが可能です。光沢性は通常試験材料からの反射光の強さをガラスと相対比較した光沢度で表されます(ガラスを100%とする)。図表8は塩ビフィルムと他の汎用樹脂フィルムのへイズ値、光沢度を比較したものですが、ヘイズ値が小さいほど透明性が高く、光沢度が大きいほど光沢性が良いといえます。

 透明性に優れた硬質塩ビ製品には、明かり取りやクリーンルームの透明間仕切り板等の建材や、工業用平板、波板、包装用シート、写真アルバム用フィルム等があります。また、ラップフィルム、農業用ビニルフィルム(農ビ)、シースルーバッグなどは、透明性が重視される軟質塩ビ製品の一例です。

図表8.フィルムのヘイズ値と光沢度

フィルムのヘイズ値と光沢度
出典:技報堂出版「プラスチックフィルム—加工と応用」

接着性、印刷性

 プラスチック製品の接着性、印刷性の良し悪しもポリマー分子の構造に起因するものです。一般的に極性、非結晶性のものは良好です。非極性、結晶性のものは本質的に表面処理を行わないと接着、印刷は困難であり、表面処理による効果は相対的に低いといえます。図表9は主要樹脂材料の接着性、印刷性の良し悪しを示すものです。

 塩ビ樹脂は接着性、印刷性に優れた樹脂のため多様なデザインの壁紙、床材、レザー、ディスプレイ、さらには石・木等の天然素材を印刷したフィルム・シートなど装飾性・意匠性を凝らした製品に使用されています。また塩ビ樹脂自体を水や溶剤に混合し、接着剤や塗料としても使用されています。

図表9.各種プラスチックの接着性、印刷性

各種プラスチックの接着性、印刷性
出典:塩ビ工業・環境協会にて作成

難燃性

 石油を主原料としているプラスチックの大きな欠点のひとつは可燃性であることです。一方塩ビ樹脂は原料の半分以上が塩であるため、汎用プラスチックの中で例外的ともいえる難燃性の樹脂です。塩ビ製品を燃焼させると発生する熱分解ガスの塩化水素が燃焼連鎖反応を停止させ、また空気中の酸素から塩ビ製品の表面を遮断し、燃焼の継続を防ぎます。

 難燃性の評価法は多くありますが、比較的精度が高く、再現性のよいものとして「酸素指数」があります。図表10は塩ビ製品と他の樹脂の酸素指数を記載したものです。酸素指数とは酸素、窒素の混合気体中にある試験片が燃焼を持続するために必要な最低酸素濃度です。この数値が大きいほど難燃性は高く、空気中の酸素は21%ですから22以上の樹脂は自己消火性樹脂であり、21未満は可燃性といえます。

 塩ビ樹脂は難燃性が高いため、窓枠、サイディング材(家屋外壁材)等の外装建材や、壁紙、フロアー材等の内装建材をはじめとし、タンク、ダクト、仕切り板等の工業用設備、看板、波板、電線被覆など幅広い分野で使用されています。

図表10.各種材料の酸素指数

各種材料の酸素指数
出典:M.M.Hirschler, Makromol.Chem.Macromol.Symp. Vol.29.,p133-153,1989

電気特性

 塩ビ樹脂は、電気絶縁性や誘導率などの電気特性の良い樹脂です。電気絶縁性の目安としては「体積固有抵抗値」や「耐電圧」がよく用いられています。体積固有抵抗は試験材料が示す電気抵抗を単位体積当りに換算した値で表されます。耐電圧は試験材料に規定電圧を一定時間かけた場合、試験材料が破壊されずに耐えた電圧で表されます。いずれも数値が高いほど電気絶縁性が良い材料といえます。塩ビ製品は図表11、12のように体積固有抵抗値はオレフィン系樹脂製品よりやや低目ですが、電気用部材は難燃性が高いことが必要とされており、住宅・車輌・家電の電線、ケーブルの被覆材、絶縁テープ、スイッチボックス、配線カバー、電力線・通信線の保護管など多様な用途に使用されます。

 電線の被覆材や絶縁テープには柔らかさが大切です。軟質塩ビは難燃性があり、柔軟性を自由に変えられ、使用済み後も容易にマテリアルリサイクルが出来ます。PEなどのポリオレフィン樹脂も多量の難燃剤を混合して電線被覆に使えますが、柔軟性やリサイクル性で塩ビ製品に対抗することは難しいと言えます。

 絶縁性以外にも、塩ビ樹脂は誘電損失が大きい特徴があります。このため高周波溶着(接着)が可能となり、製品の二次加工が容易な樹脂といえます。誘電損失と相関性のある誘電率を塩ビと他の樹脂とで比較して示すと図表13の通りになります。

 溶着により幅広のフィルム・シートをつくったり、自由なサイズと形状の袋物、カバー、ファイル、ケース類をつくることが容易です。たとえば医療用バッグ、空気入り玩具、フレキシブルコンテナなどに、溶着した塩ビ製品が使用されています。

図表11.各種材料の体積固有抵抗

各種材料の体積固有抵抗
出典:「プラスチック年鑑」422(1967)

図表12.各種材料の耐電圧

各種材料の耐電圧
出典:工業調査会「プラスチック活用ノート三訂版」、
「全面改訂版プラスチック入門」

図表13.各種プラスチックの誘電特性

各種プラスチックの誘電特性
出典:J.S.Salamone:Polymeric Materials Encyclopedia, p.8949, CRC Press (1996)

比重(密度)

 塩ビ樹脂の真比重は約1.4であり、プラスチックの中ではPET等と同様に比較的重いものに分類されています(図表14)。製品の用途によっては短所となる場合があります。逆に、水には浮かない性質を利用し、農業用水池、プールなどの遮水シートや河川・港湾などの護岸材料などに使用されます。

 なお、軟質塩ビ製品の場合は、可塑剤の分量によりますが、比重1.1~1.3の範囲となり、硬質塩ビ製品よりもやや軽くなります。

図表14.各種材料の比重

各種材料の比重
出典:大成社出版部「ポリマー辞典」(1970)

常用耐熱温度

 塩ビ樹脂はポリエチレン、ポリスチレン、ABSと同様に樹脂製品の常用耐熱温度、軟化温度が低いという欠点があります。但し、ポリプロピレンはポリカーボネートと共に常用耐熱温度は高い特徴があります。主なプラスチックの常用耐熱温度と軟化温度(ヴィカット軟化点と呼ばれています)は図表15、16の通りです。常用耐熱温度とは一般的な使用方法における耐熱温度を示すもので、塩ビ樹脂を含む汎用プラスチックは比較的短時間に耐える温度、エンジニアリングプラスチックのポリカーボネートは長時間耐える温度で意味合いが異なります。ヴィカット軟化点とは熱媒中に設置された試験片に垂直荷重をかけた圧子(針状のもの)をセットした状態で熱媒を加熱していき、圧子が試験片中に規定の深さ分侵入した時点の温度として定義されています。

図表15.プラスチックの常用耐熱温度

プラスチックの熱変形温度
出典:日本プラスチック工業連盟
「こんにちはプラスチック」

図表16.プラスチックのヴィカット軟化点

プラスチックのヴィカット軟化点
出典:プラスチック標準試験方法研究会報告、1972

衝撃強度

 塩ビ樹脂のガラス転移温度(二次転移点)は70℃以上で、常温より高いため衝撃強度が低く、特に低温域では耐衝撃性が悪いという欠点があります。但し、添加剤によって耐衝撃性を飛躍的に改質できます。衝撃強度の測定法はたくさんありますが、図表17は固定した試験片をハンマーで衝撃破壊したときに試験片に吸収されたエネルギーを測定したもので、数値が高いほど衝撃強度の高い樹脂製品といえます。

 また図表18は主な樹脂材料における温度と衝撃強度の関係を示したものです。

図表17.各種プラスチックの衝撃強さ

各種プラスチックの衝撃強さ
出典:K.Oberbach:Z.f.Werkstofftechnik,2,281(1971)

図表18.各種プラスチックの衝撃強さと温度

各種プラスチックの衝撃強さと温度
出典:プラスチックス,22(5),28(1971)

可塑剤の滲み出しおよび揮発

 軟質塩ビ製品は長年使用しているうちに、含有している可塑剤が製品表面に滲み出たり揮発する現象が発生することがあります。また、軟質塩ビ製品と接触する他の材料に可塑剤が移行することもあります。これは低分子量の可塑剤や、相溶性(混和性)が低い可塑剤を使用した場合、可塑剤を多量に使用した場合などに見受けられ、軟質塩ビ製品の短所になっています。但し、通常は可塑剤の滲み出しが問題とならないよう、可塑剤の種類や添加量を調節して使用されます。図表19は可塑剤の揮発現象を促進試験で表したものです。フタレート系可塑剤を使用した試験シートをオーブン中で加熱し、可塑剤が揮発することでシート重量が減少する割合をグラフにしています。

図表19.フタレート系可塑剤の揮発性

フタレート系可塑剤の揮発性
出典:化学工業社「増補プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧」